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最近の保険給付に関する判例のご報告−2

弁護士   相内 真一

平成22年6月15日更新

 

運転者が心臓発作を起こしたため運転を誤って事故を起こした場合、 その運転者(又は相続人等)は保険金を請求することができるのかどうか?
 

1   自動車事故に関する損害保険としては、所謂「自賠責」「任意保険」と俗称されている保険契約がありますが、それ以外にも、運転者自らが保険契約を締結して運転者自身が被害者となる事故に備える人身傷害補償保険があります。この保険では、「事故の相手方に過失があること」が保険金支払いの要件になっていないので、単独事故であっても、被保険者に重過失が無い限り保険給付がなされるという特徴を持っています。
 しかし、そのような保険であっても、保険約款には「自動車の運行に起因する急激且つ外来の事故」によって発生した損害に対して保険金が給付されるという定め方になっています。
 例えば、運転中に心臓発作を起こした運転者が運転を誤って単独事故を起こしてしまったとき、「心臓発作」そのものは「外来の事故」とは言えないのではないでしょうか? 
 つまり、「心臓発作→運転の誤り」という事故発生プロセスが、上記約款の「外来の事故」という要件との関係でどのように位置づけられるのか、つまりこのような事故発生プロセスを経た事故の場合、保険金が給付されるのかどうかと言う問題がありました。
   
 2  この約款の文言を文理的に忠実に解釈する立場の判決例は、
    「外来の事故」とは、事故の原因が被保険者(運転者)の身体の内部ではなく、外部からの作用によることを要する。被保険者(運転者)の身体的疾患等の内部的原因によって発生した事故は「外来の事故」ではない。従って、保険金請求にかかる事故が、被保険者(運転者)の身体的疾患等の内部的原因によるものでないことは、保険金を請求する側で、主張立証しなければならない。 
  と理由付けて、保険金の請求者側の主張立証責任を厳しく求めていました。この立場をとると、保険会社にとって有利な結果、つまり、保険金請求者の勝訴率が低下するという結果になります。
   
 3   しかし、この種の保険商品の約款の中には、「被保険者の疾病・疾患によって生じた傷害に対しては保険金を支払わない」旨の、所謂「疾病免責条項」を定めている保険商品と、「疾病免責条項」を定めていない保険商品とがあります。そして、「事故の外来性」を上記2のように解釈してしまうと、「疾病免責約款」が定められていても、定められていなくても、心臓発作を起こした運転者が事故を起こした場合には、「外来性」の要件が満たされないことになってしまい、いずれにしても保険金請求ができない、という同じ結論になってしまうのではないか、と言う観点からの疑問・批判もありました。
   
 4  この種の「疾病免責条項」を定めていない保険契約が締結されていた案件について、最高裁判所は、平成19年10月に、保険金を請求する側に有利な結果となる、次のとおりの判断を示しました。
 最高裁は、まず、「外来の事故とは、被保険者の身体の外部からの作用による事故」と解釈した上で、「被保険者(運転者)の疾病によって生じた運行事故も外来の事故に含まれる」と判断しました。
 そして、「疾病免責条項が定められていない保険の場合には、運行事故が保険契約者の疾病によって生じた場合であっても、被保険者に故意又は重過失が無い限り、保険金を支払うこととしていると解される」と判断したのです。
 従って、保険会社としては、疾病免責条項を定めていない保険商品について、「外来性に該当しないこと」を理由として支払を拒むことは、ほとんど出来ないことになりました。 
   
 5  そこで、この種の保険契約を締結されておられる方は、ご自身の保険の契約約款の中に疾病免責条項が定められているのかどうか、お確かめになることが必要です。万一の場合の補償は、どこまで期待できるのか、ご自身の不幸を前提とするようで気が進まないかもしれませんが、是非ともお確かめになるように、お勧めいたします。

 

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