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関西スーパー事件の位置付け

弁護士 相内真一

令和3年12月10日更新

 関西スーパーマーケットの経営統合を目指す株主総会決議について、総会決議を取消すべき事由があるとして、神戸地裁に対して、株式交換等を内容とする経営統合の差止を求める仮処分が申立てられ、神戸地裁は差止めを認めました。これに対する保全異議も退けられましたが、引続いて申立てられた保全抗告に対して、大阪高裁は、一転、神戸地裁の決定を取消し、仮処分申立てを棄却しました。12月8日現在の報道では、許可抗告の申立てがなされ、大阪高裁はこれを認めたとのことです。
 一連の経過は、新聞の経済欄のみならず一面にも大きく取り上げられていますが、本稿では、その経済的な側面ではなく、過去の判例との整合性の有無という観点から、今回の決定内容を検討してみます。
 結論としては、大阪高裁の判断は従来の裁判例とは矛盾しない内容であり、神戸地裁の判断は従来の裁判例とは異なる角度から検討した判断のようです。許可抗告に対して最高裁がどのような判断をするのかにもよりますが、高裁判断によって、全ての論点が解決したわけではありません。

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 この種案件で先例的な裁判例は、東京地裁平成31年3月8日株主総会不存在、同取消の訴えの事件の判決と、その控訴審である東京高裁令和元年10月17日判決です。
 地裁判決では、事前に書面による議決権行使を行っていた株主(会社提案に賛成していた 持ち株会)の理事長が、株主総会会場に入場して、会社提案に対する修正動議に賛成したことが、権限逸脱であるとされました。又、別の株主(法人)も同様に事前に書面による議決権行使をしていましたが、担当者が「職務代行者」として株主総会会場に入場し、修正動議については投票用紙に何も書かずにその用紙を渡していました。地裁判決は、そのことをもって、事前の書面による議決権行使を撤回したもので、棄権と扱うべきであると判断しました。
 高裁判決でも、前者の株主が出席理事長による修正動議に賛成する旨の議決権行使は、権限を逸脱し又は濫用したものであり、且つ、会社が悪意であったとして、無効と判断しました。
 又、後者の株主については、議決権行使の授権が無く「傍聴者として入場した」のであるから、事前の書面による議決権行使が撤回されたと認めることは出来ないと判断しました。

2   関西スーパー事件の案件では、事前に書面による議決権行使をしている株主の担当者が株主総会に入場して白紙のままの投票用紙を会社側に渡しました。これにつき、大阪高裁は、株主の真意等からみて、事前の議決権行使(会社提案に賛成)を撤回したものではないと判断した点で、前掲の東京高裁判決と軌を一にしています。
 しかし、関西スーパー事件は、出席していた者が、副社長という相当包括的な権限を有する立場の者であったことが、東京高裁の案件と異なっています。大阪高裁は、株主の正確な意思表示を反映するためには、投票用紙以外の事情も考慮することを認めており、出席者の権限については考慮の対象外としているように見えます。
 更に、株主総会の会場に入場して「棄権とみなされる白票を投じたこと」が、事前の議決権行使との関係でどのように扱われるのか、出席者が理解していなかったことをどう評価するのかということも、問題となりました。この点について大阪高裁は、総会に出席したことによって事前の書面による議決権行使が無効になるとの説明が周知されていなかった、そして、それは議長の説明不足による、と述べて、株主自身が事前に行使した議決権の内容(会社提案に賛成)と「白票=棄権」という投票とは異なっているが、このような場合、株主の意思を尊重して事前の議決権行使の通り「賛成」と扱うべきと判断しました。

3   「議場閉鎖」の解除の後に、投票内容を訂正した(申立債権者の主張)」ことを問題視した主張についても、大阪高裁は、「株主総会の決議方法について定めた法律はない」として、仮処分申立債権者の主張を退けました。この点は、昭和42年の最高裁判決並びに前掲の東京高裁判決の考え方を踏襲しているようです。決議成立の時期に関して、前掲の東京高裁判決は、「正しい集計結果によれば可決されるべき場合に、決議が成立した」としているようです。これについては、「正しい決議結果であるか否か」は、その場で判断できないこともある(関西スーパー事件はまさにそのような案件と思われる)との論評もあります。

 現時点で、明らかになったことと並びに実務的に今後検討すべき点を、挙げておきます。

 ・  株主総会の開催手続については会社法で厳格に定められているものの、その運営方法については高度な自治に委ねられている。この点で、総会議長を含めて、会社側の説明責任は重大である。 
 ・  事前に書面による議決権行使が行われているケースで、当該株主本人或いはその従業員等が株主総会に出席しようとした場合、株主本人や当該従業員等を「傍聴者」として出席を認めるのか否か、株主本人の意向変更、株主の特別の授権に基づいて事前の議決権行使を撤回して改めて議決権行使をしようとしているのかについてのチェックが必要である。従って、この点についてのルールを予め明確化して、株主に周知徹底しておく必要がある。もちろん、総会当日、議場の受付並びに議長からの説明
も必要である。
 前掲判決はいずれも、意思表示に関する民法の規程が、議決権行使(総会議案に対する株主の意思表示)にも適用されることを認めている。少なくとも否定はしていない。しかし、外形的に決議が成立した後も決議取消の訴えの提訴期間満了までの間、「株主の真意と会場での投票行為の中身とが異なる」ことを理由として、決議取消の訴えの提起を認めるとすれば、総会終了の後、相当期間にわたって、総会決議の安定性が確立しないことになる。神戸地裁が、「議決権の行使内容はマークシートへの記載か提出・不提出という事実でのみ把握できる」と判断したのは、「後出しの理由付け」によって、かかる不安定さを招来しないことを意識したと思われる。この点での一義的明確性は無視できない。その意味でも、ルールの策定と周知が重要である。
以上 
                                                                    

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