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「ビジネスと人権」について

弁護士 礒川剛志

令和3年12月1日更新

1 はじめに 
 
 最近、新聞などで目にするようになったキーワードに「ビジネスと人権」があります。
人権とは、全ての人が生まれながらに持つ権利ですが、人権問題は歴史的に国家と市民の間の問題と考えられてきました。そのため、日本国憲法でも国民の権利として定められています。しかしながら、グローバル企業の出現など、企業が社会で果たす役割が大きくなり、企業活動における人権尊重のあり方が世界的に問題となるようになってきたのです。すなわち、「ビジネスと人権」の関係が問題になるようになりました。

2 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」 
   海外で「ビジネスと人権」が大きく取り上げられるようになった契機は、2011年に国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」です。
 上記原則は、企業に対し、①人権方針によるコミットメント、②人権デューデリジェンスの実施、③是正措置を求めています。そして、同原則に沿って企業活動がなされるよう各国に対し、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(National Action Plan)を策定することが奨励されています。これを略して「NAP」と呼びます。

3 日本の「『ビジネス人権』に関する行動計画(2020-2025)」 
   日本のNAPとして2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020―2025)」が公表されました。
 上記行動計画では、政府が取り組む各種施策が記載される一方、企業がその活動において人権デューデリジェンス・プロセスを促進することへの期待や中小企業における「ビジネスと人権」への取組みに対する支援等が表明されています。
 人権デューデリジェンスとは、人権への影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかに責任を持つための仕組みやプロセスのことです。企業の役職員がその立場に相当な注意を払うための意思決定や管理の仕組みを意味すると言われています。会社法に「内部統制」という考え方がありますが、人権リスクに関する内部統制を意味すると考えることができるでしょう。

(参考)「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)
外務省のサイト(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008862.html

4 人権に関する取組み不足によるリスク  
 例えば、企業活動に関して人権問題が発覚した場合、NGOや市民団体、消費者から批判を受け、それがメディアやSNSを通じて拡散されることにより、当該企業の商品が不買運動の対象になることが十分あり得ます。また、このようなスキャンダルは、企業のブランドイメージを長期間に渡り損なうものであり、さらには投資家離れを引き起こし株価の下落を招く可能性もあります。
 今までも、日本や欧米のアパレル企業が発展途上国の現地工場(製造委託先)と取引を行い、その現地工場での劣悪な環境での労働や、児童の労働搾取というスキャンダルに巻き込まるというケースが度々ありました。自社工場ではないにも拘わらず、企業は、原料の調達先から製品の販売までのいわゆるサプライチェーン全体の責任を問われ、いったんスキャンダルが発生すれば、その損害は計り知れないということになります。

5 人権に関する取組みをすることによるメリット
   逆に真摯に人権に関して取組む企業には、ブランドイメージの向上が期待できます。特に最近は「ESG投資」といった言葉にあるように投資家も単に企業の収益だけではなく、その企業が環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の各問題にどのように取り組んでいるかを考慮して投資を行っています。「ビジネスと人権」は、このうちの社会(Social)に分類されるものであり、人権に関して取組む企業は、株式市場における評価を高めることもできるわけです。

6 終わりに 
   「ビジネスと人権」はともすれば、海外のサプライチェーンの問題と思われがちですが、決してそうではありません。例えば、国内の会社でも、従業員を過労死するほど働かせるいわゆるブラック企業と呼ばれる会社があります。あるいは、外国人労働者を不当な条件で働かせている会社もあります。そのような会社と知らずに取引をした場合、国内企業との取引であったとしても、「ビジネスと人権」が問題になる可能性があります。
 環境や社会貢献などと併せて企業活動に際して考慮すべきキーワードとして「ビジネスと人権」が加わったと考える必要があります。
以上 
                                                                    

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