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認知症の方への監督義務−平成28年3月1日最高裁判決−@

弁護士 村上智裕

平成28年4月26日更新

 認知症にり患した方が駅構内の線路に立ち入り列車に衝突した事故に対しての最高裁判決が出ました。社会の高齢化、それに伴う認知症患者数の増加、介護現場の過酷さなどが社会問題となるなかでの最高裁判決に世間の注目が集まりました。
 争点となったのは、認知症の方のように責任能力がない人の賠償責任を家族が負わないといけないのか、という点です。民法714条は「(前2条の規定により)責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りではない」と規定しています。本件では、事故により亡くなった方と同居していた妻と、当時同居はせず遠方に住みながら介護に関わってきた長男が「監督義務者」にあたるかについて判断がなされました。
 最高裁判所の判断はすでに広く報道されているとおりです。本件については、一審判決は妻と長男、いずれの責任も認める内容、二審判決は妻の責任のみを認める内容であったところ、最高裁判所は、本件における妻、長男いずれも「法定の監督義務者」ないし「法定の監督義務者に準ずべき者」にはあたらないと判断し、鉄道会社の請求を認めませんでした。
 この最高裁判決のポイントとされているのが“監督義務の総合判断”です。
 例えば、二審判決は、「現に同居している他方の配偶者」について、「夫婦の協力及び扶助の義務(民法752条)の履行が法的に期待できないような特段の事情のない限り、夫婦の同居、協力及び扶助の義務に基づき、精神障害者となった配偶者に対する監督義務を負うのであって、民法714条1項所定の法定の監督義務者に該当するものというべきである」とし、“同居の配偶者については原則、監督義務がある”との判断をしたのに対し、最高裁判決は、@精神障害者の生活状況や心身の状況、A精神障害者との親族関係の有無・濃淡、B同居の有無その他の日常的な接触の程度、C精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、D精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、Eこれらに対応して行われている監護や介護の実態など、諸般の事情を総合考慮して、その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行動に係る責任を問うことが相当といえる客観的状況が認められか否かという観点から判断すべきである、としています。

 → 「認知症の方への監督義務−平成28年3月1日最高裁判決−A」へ続きます
 
  以上
                                                                    

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