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建物賃貸借の連帯保証人の責任について

弁護士 天野雄介

平成28年3月7日更新

 建物の賃貸借契約において、連帯保証人が求められることがあります。
 最近では家賃保証会社が保証人となることも増えましたが、賃借人の親族等に連帯保証人になってもらうこともあります。
 この連帯保証人の責任の範囲は通常は賃借人が負う一切の債務であるため、賃借人が賃料を滞納した場合の賃料債務だけではなく、原状回復義務や失火等による建物滅失の損害賠償などにも及びます。
 この連帯保証人の責任について、例えば、賃借人が賃料を全く支払わないにもかかわらず、賃貸人も賃貸借契約の解約や明渡請求をしない場合には、賃料債務が延々と発生することになりますが、これを回避や軽減することはできないのでしょうか。

1 賃貸借契約の更新による責任回避
 建物の賃貸借契約では契約期間を1年や2年に設定し、期間満了時に自動更新する旨を定めていることが通常です。
 賃貸借契約の更新時には、賃貸人と賃借人の合意で賃貸借契約を更新する合意更新や何らの合意をせずに自動で更新する法定更新があります。
 仮に、合意や法定での更新後の契約が更新前の契約と同一でなければ、保証人の地位も更新後に契約には承継されないと主張することも可能と思われます。
 この点、最高裁判所は、平成9年11月13日判決において、反対の趣旨をうかがわせる特段の事情がない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解すべきであるとしており、保証人は原則として更新後も保証の責任を免れないとしています。
 したがって、特段の事情がない限り、更新後の契約であることのみをもって保証人の責任を回避することは難しいでしょう。

2 信義則による責任の軽減  
   更新後も連帯保証人の責任が継続するとしても、多額の賃料を滞納しているのに漫然と更新し、連帯保証人に賃料の滞納があることを通知することを賃貸人がしなかった場合にまで、保証人の責任が延々と増加することは不相当と思われます。
 この点、東京地裁平成6年6月21日判決(@判決)は、賃料を長期滞納しているのに保証人に何らの連絡もないまま2回の合意更新がなされた事案で、2回目の合意更新後は保証人は責任を負わないとしています。
 また、東京地裁平成10年12月28日判決(A判決)は、多額の賃料を滞納していたにもかかわらず、法廷更新された事案で、法廷更新後の賃借人の債務について保証人は責任を負わないとされています。
 以上のとおり、事情によっては保証人の責任軽減はありえますが、@判決では連帯保証人は結局3年半分の賃料の支払義務を負っていること、A判決では連帯保証人が事前に辞任の意向を示しており、賃貸人もこれに応じるかのような行動をしていたという特別な事情がある事案であり、賃料を滞納状態で更新したことや、賃料の滞納を保証人に通知しなかっただけで、責任を軽減できるという一般化は難しいでしょう。

3 保証人の特別解約権の行使  
   連帯保証契約も契約ですので、特別の定めがない限り、保証人からの一方的な意思表示で解約することが出来ないのが原則です。
 もっとも、保証人が予期しない損害が発生し、過酷な負担が生じる場合には、判例上、保証人による一方的な意思表示での解約、いわゆる特別解約権が認められています。
 東京地裁平成9年1月31日判決では、賃貸人の不誠実な対応のために賃貸人と賃借人の紛争が長期化した事案で、保証人の特別解約権を認めています。
 ただし、この特別解約権は保証人が予期しない損害が発生し過酷な負担が生じる場合ですので、数ヶ月の滞納程度では予期可能ですし過酷な負担でもありませんので、そのような場合に行使することは出来ないでしょう。

4 対策  
 

 まずは、賃料の滞納を把握することが重要でしょう。
 賃借人の経済事情が変動した場合などは特に注意すべきで、定期的に賃貸人に状況を確認することも1つの方策です。
 仮に、賃料の滞納が長期化しているようであれば、賃借人と相談し、滞納の解消に向けた返済計画や、滞納の解消が困難な時には、不相当な賃借になっているということですので、退去も勧めるべきでしょう。
 その場合に、引越し費用等を賃借人が用意できない場合は、これ以上滞納が増加しないためにも、引越し費用の立替等も検討すべきでしょう。
 仮に、賃借人と協議しても進まない場合や賃借人と協議できない場合は、賃貸人にその旨の事情を伝えて、保証人の辞任を依頼すべきです。
 辞任までの滞納賃料の支払義務を免れることは出来ませんが、辞任以降の責任の発生を止めることが出来ます。
 賃貸人が保証人の辞任を許可せず、他方で賃借人に対して賃貸借契約の解除や明渡請求をしない場合は、特別解約権の行使を検討すべきです。
 どのタイミングでどのような事情で解約するかは法律的に難しい判断を含みますので、この段階では弁護士に依頼して解決すべきでしょう。

   以上
                                                                    

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